リレー・エッセイ


JMSS Home Page/Japan
(Updated: May 06,2010)

カーネーションとMS (Mother'S day)


独立行政法人国立病院機構 北海道医療センター 副院長
菊地 誠志

 20年前、わたしたち一家はバンクーバーに2年ほど暮らしました。今回の冬季オリンピックがそのバンクーバーでの開催とあって、これは開会式からしっかり見てやろうとテレビの前に座り、いよいよ聖火の点火というところで、なんと聖火台の一部がうまく作動しません。予行で何回も確かめて失敗はあり得ないことだったはずです。それに加えて意外だったのは、テレビの画面で見る限り、関係者にあまり慌てた様子がなかったことです。カナダ人の鷹揚さ? と妙に感心しました。
 
 5月になると母の日です。バンクーバーではカーネーションが街角で売られます。カーネーションを売るのはボランティアで、収益金はMS協会へ寄付されます。毎年、母の日にはカーネーションを買ってMSを考えましょうというキャンペーンになっています。キャンペーンはカナダ全国で行われ歴代の首相も参加してきました。そして、寄付金はMS研究にも役立てられます。バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州だけでも今年の収益目標は、10万カナダドル(約920万円)とのことです。いつからどんな経緯で始まったものなのかは聞かずじまいでしたが、MSが女性に多いことと関係がありそうです。
 
 バンクーバーでの研究テーマのひとつとして、オリゴデンドログリア(髄鞘を作る細胞)の実験を始めました。そのとき、ジムという実験助手がボランティアで手伝ってくれました。本来の雇い主の仕事を脇にやって、どうしてこんなに熱心なのかとこの大男に聞いたところ、彼のお母さんがMSの患者さんで、こうして手伝うのも親孝行(英語で何といったか忘れました)とのことでした。ジムからお母さんへのカーネーションというわけです。
 
 コミュニティーがMS患者さんの療養とその研究を支援するという伝統の中、ブリティッシュ・コロンビア大学病院には、MS研究で有名なMSクリニックがあり現在も盛んに活動しています。インターフェロンの開発に中心的役割を果たした故Paty教授(わたしの恩師である田代邦雄北海道大学名誉教授の親友)が長く主宰していたセクションです。このリレーエッセーにすでに登場した、深澤先生、深浦先生も短期間在籍していました。欧米で大規模なMSの調査が可能なのは、単に、患者数が多いと云うことだけではなく、社会全体で取り組むべき課題なのだという考えが広く行き渡っているためでもあると思います。
 
 バンクーバー冬期オリンピックも閉会式を迎え、なんと聖火台が再登場しました。開会式で作動しなかった部分が見事に立ち上がりました。開会式では予想外のことが起こった。でも、へこむことなく逆にその事実を取り込みました。新たなシナリオを書き上げた担当者のしたたかさに脱帽です。ロゲ会長、彼に金メダルを!
 

 日本MS協会トップページへ   エッセイ目次へ 


Created: Aug.22,2009