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(Updated: Nov.28,2009)

MSの地域差と専門医療の地域格差


山口大学大学院医学系研究科
神田 隆

 つい先日、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)の患者会の会合に行ってきました。この病気も寛解・増悪を繰り返す神経系の脱髄性自己免疫疾患でMSと似たところが多く、治療法もかなり共通した部分があります。日本国内の患者数は推定2000人とMSと比べて圧倒的に少なく、東京都と埼玉県のみで公費負担が行われてきた陽の当たらない疾患でしたが、今年から特定疾患(45疾患から56疾患に増えたことは皆様ご存じの通りです)の1つに加わることとなりました。これでこの疾患が日本中どこででも公費の援助を受けて治療ができるようになったわけで、地方在住の患者さんにとってはとてもいいことだと喜んでいます。

 CIDPの公費負担のような“目に見える”地域格差は、関係者が声を上げることで時間と共に解消されていきますし、地方での特定の診療科の不足はマスコミにもわかりやすいようですが、専門医療の地域格差というのは表面的にはなかなかわからないところがあります。
 私が東京から山口に移ってはや5年が経ちました。医師の首都圏偏在は神経内科も例外ではなく、東京であれば多数の専門医(個々の水準についてはここでは述べません。悪しからず)の目に触れる機会がある分、患者さんがあるレベル以上の専門医療に接するチャンスは大きいといえます。しかし、山口のように限られた人的資源の中では、大学病院がしっかりしていないと地域全体の患者さんに大きな不利益を負っていただくことになりかねません。
 このことを肝に銘じつつ、免疫性神経疾患には特に重点を置いて診療を続けてきましたが、東京では神経内科の通常の外来初診で頻繁に遭遇する、比較的軽症で若い女性の“西洋型”の患者さんが極めて少なく、入院中の、脊髄症状または眼症状の極めて強い患者さん(女性が多いが老若問わない)のコンサルテーションがやたらに多い等、MSの患者さんの質にずいぶん東京と差があることが異動当初から気になっていました。
 同じ免疫性神経疾患でも、MGやCIDPの患者さんに関しては、数、患者背景、重症度のどれをとってみても東京で診た患者さんと特段の差があるようには思えませんので、どうやらこれはMSに限った出来事らしいと思っておりましたら、ちょうどこの5年の間にNMOの疾患概念が確立し、結局、山口県には西洋型MSが少なく、抗アクアポリン4抗体陽性のNMOが多いことを反映した臨床的実感であったということがわかったわけです。

 MSの治療はインターフェロンの導入によって大きく変貌しましたが、病因についてはまだまだ解明にはほど遠いのが現状です。しかし、“格差があるところには原因がある”のは、経済活動や医師の偏在だけではなくMSにおいてもおそらく真実でしょう。
 東京と山口の患者構成の違いは何によるものか? この違いにこだわることが、MSの病因論に迫れる大きな突破口になるのではないかと密かに考えています。

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Created: Aug.22,2009