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(Updated: Sept.10,2009)

患者志向のチーム医療を


医療法人セレス さっぽろ神経内科クリニック
理事長・院長

深澤俊行

 私が神経内科の研修を終えた約20数年前を思い出すとMSの治療内容や診療体制には隔世の感があります。早期診断や経過観察のために私たちはMRIという強力な味方を手に入れました。インターフェロンの登場で病気の予後は明らかに改善しました。MSとしては特異な存在であった視神経脊髄型MSの病態も明らかにされようとしています。この分野での劇的な医学の進歩を臨床の現場で実感できていることをとても嬉しく思います。

 いっぽう、MSに対する社会的理解、一般医療者・福祉関係者の理解は決して十分とは言えません。「精神的なもの」と放置されたり、不要な手術を受けた患者さんはいまだにいます。一部の医療従事者から「MSはステロイドで治るでしょう。他の難病と比べれば・・・」と言った暴言を耳にするのは悲しいことです。MSが介護保険の特定疾病に入っていない、療養入院が必要になった時点で高価な治療を断念せざるを得ないなどの制度のゆがみが是正され、社会がMSという病気を的確に理解し、医療・看護・介護・福祉などが適切に継続的に提供される必要があります。MS協会などによる社会活動にとても期待しています。

 とは言っても、医療者の意識改革がまず必要です。MS診療をとりまく医療環境は大きく変化してきたわけですが、患者志向という基本的な意識のあり方に、最近はやや不安を感じています。研究成果があがり、新しい治療法が開発されることは本質的に重要なことです。しかし、最近の医療集団が論文志向・権威志向に陥っているとの懸念を抱いているのは私だけではないでしょう。また、診療体制の現状が患者志向でない事実もなぜか見過ごされています。たとえば仕事を休むことへの精神的ハンディを考えると休日外来はとても大切です。しかし、現実には「日曜祝日は休診」が一般的です。最新の医療を求めることも必要ですが、現状でできることはまだまだあるはずです。医療関係者の意識改革が重要なのだと思います。

 MSは、比較的若い世代、就職や結婚、出産や育児といった、まさに人生の一番密度の濃い時期に発症することがとても大きな特徴ですから、いろいろな価値観を理解できなければ診療はできません。また、一生病気を抱えていくこのような患者さんに対して、我々医療従事者が関われる時間はごく短期間にすぎません。自分という個人の限界を謙虚に理解し、医者はチーム医療の一員であるとの認識は重要です。医者一人と患者さんとの間で取れるコミュニケーションなどは知れたものです。チームの一員として自分にできる役割をしっかり担うこと、そして、ひとりの患者さんのそばに添い続けたいという医療チームとしての気持ちがとても重要なのだと感じます。しかし、大学病院や総合病院の看護師はローテーションのために長く同じ科に勤務するのができにくい現状があると聞いています。私達は医療チームが患者さんの一生に添い続ける場の保障としてさっぽろ神経内科クリニックをつくることを決心しました。

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Created: Aug.22,2009